大会概要
大会名:第72回 全日本実業団対抗陸上競技選手権大会
開催日:2024年9月21日〜23日
会 場:維新みらいふスタジアム(山口県山口市)
レース結果
種 目:女子400m
記 録:52秒29
順 位:1位〔タイムレース〕
備 考:自己ベスト・大会記録
備 考:レース日時 ◇9月22日 14:10~
種 目:女子200m
記 録:23秒90
順 位:3位
備 考:予選 23秒93〔1組1着〕
備 考:レース日時 ◇予選 9月23日 10:45~ ◇決勝 9月23日 13:25
( 出典:東邦銀行陸上競技部 公式サイト「大会日程・結果」)
( 出典:日本陸上競技連盟「第72回全日本実業団対抗陸上競技選手権大会」リザルト )
松本奈菜子のコメント
全日本実業団では、日本選手権ぶりの試合だったのでとても緊張感のある試合でした。
その中で、久しぶりのレースではありましたが、400mでは自己ベストを更新することができたこと、200mでは久しぶりの23秒台と手応えのあるレースをすることができました。
後半シーズン1発目の試合で練習で積み上げたことが発揮することができよかったです。
修正点もあるので、ここから続く試合に活かしていきたいです。
応援ありがとうございました。
考察①前半シーズンの怪我と、見えない時間の積み重ね
このレースの意味を正しく受け止めるためには、まず2024年9月30日付の松本自身のブログで語られた前半シーズンの背景を知っておく必要がある。
松本はブログの中で「前半シーズンは怪我の繰り返しとなり」と振り返り、約2か月半という長いリハビリと復帰までの期間を過ごしたことを綴っている。月陸Onlineの取材によれば、ケガの影響でスピードを意識した練習を十分に取り入れられない状況であったという。その分、走り方そのものを見直し、腕振りとのタイミングを合わせることに意識を向けてきたと松本は語っている。
焦って元の状態に戻ろうとするのではなく、走りの基礎から丁寧に組み立て直すという選択。この見えない期間の積み重ねが、全日本実業団での走りに直結していたのではないかと感じられる。
考察②52秒29――日本歴代2位という記録の重み
今大会の400mで松本は52秒29をマークし、優勝とともに自己ベストおよび大会記録を樹立した。この記録は丹野麻美の日本記録51秒75に次ぐ日本歴代2位という、極めて重要な記録である。
高校時代から競り合ってきたライバル・青山聖佳の記録(52秒38)、そして浜松市立高校の先輩にあたる杉浦はる香が持っていた歴代3位の記録(52秒52)も、この一走で上回った。2022年に記録した52秒56の自己ベストを2年ぶりに更新したこの52秒29は、単なる自己記録の更新にとどまらず、日本の女子400m史にその名を刻む記録となった。
なお、レース展開について上記の月陸Onlineの記事は、追い風の吹くバックストレートでしっかりスピードに乗り、独走状態となったラストもしっかり駆け抜けたと伝えている。後輩の井戸アビゲイル風果とともにワンツーフィニッシュを飾り、笑顔がこぼれたという様子も描かれている。
考察③「時間は限られている」――28歳で芽生えた覚悟
月陸Onlineの記事で、松本は今シーズンへの向き合い方について率直に語っている。日本選手権を終えた後、パリ五輪に出場できなかったことで、まずは日本記録更新を目指して夏を過ごしてきたという。
9月3日に28歳の誕生日を迎えた松本は、「時間は限られている」という思いとともに、これまで以上の覚悟を持つようになったと語っている。怪我という制約の中でこの夏を過ごしながらも、今できることに集中して取り組んできた姿勢が、この言葉から伝わってくる。
長く競技を続けてきたからこそ実感する時間の有限性。その自覚が、52秒29という記録を引き寄せる原動力のひとつになっていたのではないかと感じられる。
考察④「51秒台へのステップ」という、確かな手応え
自己新記録を更新しながらも、松本はこの日のレースについて「後半が少し止まってしまった」と、課題も率直に口にしている。
それでもこの日の52秒29という記録を、月陸Onlineの取材で「51秒台へのステップになります」と表現していることが印象深い。満足や到達点としてではなく、その先にある51秒台という目標への通過点として、この52秒29を位置づけている。
さらに松本は、男子短距離で次々と記録が更新されていく状況に触れながら、「女子のスプリントは日本記録も止まっている。どんどん更新していく勢いじゃないといけない」と語り、東京世界選手権を見据えていることも明かしている。
考察⑤女子200m23秒90が示す、スピード感覚の回復
女子200mでは予選23秒93(1組1着)、決勝23秒90で3位という結果であった。「200mでは久しぶりの23秒台と手応えのあるレースをすることができました」という言葉が示す通り、これも久しぶりの実戦における大切な収穫であった。
400mを主戦場とする松本にとって、200mで発揮できる絶対的なスピードは、400m前半局面の走りを支える土台となる。長期離脱を経てもなお23秒台という数字を残せたことは、走りの感覚が着実に戻ってきていることの証である。
考察⑥「緊張からの疲労感」を言葉にできる力
上記のブログの中で松本は、久しぶりの試合だったために「緊張感がとてもあり、緊張からの疲労感があった」と綴っている。
これは、単なる体調の記録ではなく、極めて重要な自己観察ではないかと思われる。レースそのものへの身体的な疲労だけでなく、緊張という心理的な要素が疲労として表れることを正確に自覚し、言語化できていること。そしてその感覚と「上手く付き合いながら怪我なく試合をしていきたい」と、次への向き合い方を冷静に語れること。
10月以降の連戦を見据えたとき、こうした自己の状態への精度の高い理解こそが、怪我の再発を防ぎながら安定した競技活動を続けていく上で大切な力のひとつになっていく。
考察⑦「皆さんと喜べたのがご褒美でした」という言葉
松本のブログの中で最も心に残るのが、「皆さんと喜べたのがご褒美でした」という一文である。
自己ベストや大会記録という結果とともに、怪我による長期離脱中に支えてくれた人々と復帰を分かち合えたことを「ご褒美」と表現するこの感性に、松本という競技者の在り方が表れている。怪我という苦しい時間を経て、ようやく実戦の場に戻ってこられたこと。そしてそこで結果を出し、チームとともに喜びを分かち合えたこと。その積み重ねの先にある言葉として、深く受け止めたい。
考察⑧52秒29が刻んだ、新しい段階への再出発
中学時代に800mで日本一に輝き、高校3年生で400mの日本選手権を制してから今日まで長いキャリアを積み重ねてきた松本が、51秒台という、2008年以来動いていない領域に手が届きそうな場所まで来た。月陸Onlineはこの状況を「2008年から閉ざされている重い扉が開こうとしている」と表現している。
前半シーズンの怪我、約2か月半のリハビリと再構築の時間、そして日本選手権以来となる緊張感の中での実戦。それらすべてを経て迎えたこの全日本実業団で、松本は日本歴代2位となる52秒29という記録を刻んだ。
これは単なる「復帰の証」ではない。走りの再構築、フィジカルの立て直し、自身の感覚への深い理解、そして「時間は限られている」という覚悟。それらを積み重ねた上に刻まれた、新しい段階への「再出発の証」として、このアーカイブに記録しておきたい。
51秒台という扉の前に立った松本は、再び確かな足取りで歩みを進めている。
解説――全日本実業団対抗陸上競技選手権大会について
全日本実業団対抗陸上競技選手権大会は、日本実業団陸上競技連合 が主催し、毎日新聞社が共催する、日本の実業団対抗による陸上競技選手権大会である。1953年の初開催以来70年以上にわたって継続されており、男女総合、男子総合、女子総合の3つの対抗成績が競われる、実業団陸上競技界における最も権威ある大会のひとつである。2005年以降は例年9月に開催されており、会場は持ち回りとなっている。
日本実業団陸上競技連合は翌年の国際大会への海外派遣や強化合宿を実施しており、この選手権での成績がそのような活動と結びつく舞台として、実業団選手たちにとって特別な意味を持っている。
解説――維新みらいふスタジアム(維新百年記念公園陸上競技場)について
維新みらいふスタジアム は、山口県山口市の維新百年記念公園内にある陸上競技場兼球技場であり、正式名称を「維新百年記念公園陸上競技場」という。陸上競技場・体育館・野外音楽堂などを備え、山口県におけるスポーツ・文化の拠点となっている。
陸上競技場は第66回国民体育大会(おいでませ!山口国体)・第11回全国障害者スポーツ大会のメイン会場となることを機に整備が行われ、2011年3月に最新の設備を備えた現代的な競技場へと生まれ変わった。
全天候舗装仕上げのトラックと天然芝フィールドを有し、収容人員は約2万人(芝生席含む)。県内唯一の日本陸上競技連盟公認第1種陸上競技場である。大型映像装置・雨天練習場・トレーニングルームなどの最新設備も充実しており、陸上競技やサッカー・ラグビーなど多目的に活用されている。
JリーグのレノファFC山口のホームスタジアムとしても知られており、陸上競技においては日本陸上競技選手権大会や田島直人記念陸上競技大会の会場として広く親しまれている。
参考資料
日本陸上競技連盟「第72回全日本実業団対抗陸上競技選手権大会」リザルト
東邦銀行陸上競技部 公式サイト「大会日程・結果」選手コメント
東邦銀行陸上競技部 公式サイト「大会日程・結果」選手ブログ〔2024.09.30〕
月陸online「400m 松本奈菜子が日本歴代2位の52秒29!!「51秒台へのステップ」覚悟の夏を過ごし自己新」

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