大会概要
大会名: Denka Athletics Challenge Cup 2019
開催日: 2019年10月19日
会 場: デンカビッグスワンスタジアム(新潟市)
レース結果
女子400m(タイムレース)
記 録: 54秒59
順 位: 3位
松本奈菜子のコメント
本大会については、東邦銀行陸上競技部公式サイトに記載がなく、松本奈菜子本人による公式コメントも確認されていない。
考察①回復の兆し――2週間で0.83秒の改善
国民体育大会での55秒42から約2週間後、松本は54秒59を記録した。この0.83秒の改善は、スポーツ生理学における「疲労回復の過程」として理解できる。
国体での記録低下は、シーズン終盤における疲労の蓄積によるパフォーマンス低下であったと考えられる。その後の2週間での改善は、以下の生理学的回復プロセスを示唆する。
神経筋系の回復(1-3日): 高強度運動後の神経伝達物質の回復。これにより筋肉への指令伝達が正常化し、筋出力が回復する。
筋グリコーゲンの再充填(2-5日): 運動により消費された筋グリコーゲンの再合成。十分な栄養摂取と休養により、貯蔵量が正常レベルへ戻る。
筋損傷の修復(3-7日): 高強度運動による筋微細損傷の修復。炎症反応の収束と筋線維の再生。
心理的回復(7-14日): 精神的疲労からの回復。動機づけの再活性化、自信の部分的回復。
松本の場合、完全回復には至っていないと考えられる(54秒59は依然として自己ベストから1秒以上遅い)が、急性的な疲労からは回復の方向に向かった段階と解釈される。
考察②54秒59という記録の位置づけ
この記録を前後の大会と比較すると、その意味が明確になる。
- 全日本実業団(9月22日): 54秒35(1位)
- 国民体育大会(10月上旬): 55秒42(4位)
- Denka Challenge Cup(10月19日): 54秒59(3位)
全日本実業団との差はわずか0.24秒である。400mにおける0.2秒程度の変動は、風向(追い風vs向かい風)気温(筋温への影響)レーン配置(カーブ半径の違い)といった外的要因で生じることがある。
したがって54秒59は、実質的に全日本実業団と「同等の水準」と評価できる。これは、国体での記録低下が一時的な状態であり、松本の実力は54秒台前半にあることを示していると考えられる。
この記録は、53秒台という次の目標には届いていないが、55秒台への後退は回避できたという二重の意味を持つ。心理的には「基盤維持」として、自信を保持する機能を果たしたと考えられる。
考察③タイムレース形式の特性
本大会はタイムレース形式で実施された。この形式では、直接的な順位争いが減少し、各選手が自己のペースで走行しやすい環境となる。
この種の「競争圧力の少ない環境」は、心理的な負担を適度に抑制する。国体での55秒42は、「走りきれない」という心理的な制限が働いた可能性がある。タイムレースでの心理的余裕が、この制限を部分的に和らげ、0.83秒の改善をもたらした可能性が考えられる。
また、スポーツ心理学における「最適覚醒理論」では、重要度の比較的低い試合ほど心理的プレッシャーが低く、技術的な試行がしやすいとされる。松本が国体で認識した「走りきれない」という課題に対し、ペース配分の調整、終盤での技術的工夫といった要素を試行した可能性がある。
考察④積極的休養としての競技参加
完全回復には至っていない状態での試合出場は、スポーツ生理学における「積極的休養(active recovery)」の考え方と関連している。完全休養よりも適度な運動を継続する方が、回復を促進する場合があるとされる。
Denka Challenge Cupへの出場は、以下の効果を持った可能性がある。
体力維持: 完全休養による筋力・神経系の低下の回避
代謝活性維持: 適度な運動刺激による血流促進
競技感覚の保持: 長期間の競技中断による感覚喪失の防止
多くのアスリートは、シーズン終盤に急激な活動量の低減を行い、筋力低下、体重増加、競技感覚の喪失を経験することがある。段階的な負荷調整の一環としてのレース出場は、これらの変化を緩やかにする役割を果たすと考えられる。
考察⑤シーズン終盤3戦の推移が示すもの
2019年シーズン終盤の3戦を通して見ると、明確なパターンが浮かび上がる。
- 全日本実業団(9月22日): 54秒35(優勝) ―― 目標未達だが競争力維持
- 国民体育大会(10月上旬): 55秒42(4位) ―― 記録低下、疲労の蓄積
- Denka Challenge Cup(10月19日): 54秒59(3位) ―― 部分的回復、基盤維持
この推移は「目標未達→疲労蓄積→回復」という疲労-回復サイクルを示している。重要なのは、国体での記録低下後も諦めず、回復を試みた点である。
シーズン終盤の不調を受け入れ、次シーズンまで競技から離れるアスリートもいる。しかし松本は積極的に回復を試み、一定の成果(54秒59)を得た。この姿勢こそが、長期的な競技継続を可能にすると考えられる。
考察⑥2020年シーズンへの橋渡し
Denka Challenge Cupでの54秒59は、2020年シーズンへの「橋渡し」を達成したことを示している。完全回復には至っていないと考えられるが、大きな後退は回避された。
この状態でオフシーズンに入れば、戦略的休養(2-4週間)、基礎体力再構築(4-8週間)、専門的トレーニング再開(8週間以降)という段階的プロセスにより、2020年シーズンでの53秒台到達が現実的な目標となる。
国体で認識された「練習不足」「走りきれない」という課題は、オフシーズンの体系的なトレーニングによって対処可能である。シーズン中は試合頻度が高く十分なトレーニング時間を確保しにくかったが、オフシーズンには時間的余裕がある。
考察⑦不完全性の中の持続可能性
Denka Athletics Challenge Cup 2019は、記録的には目立たないが、競技キャリアという長い視点では重要な意味を持つ。54秒59という記録は、完全回復には至っていないが、競技の基盤を維持し、次への道筋を作った。
スポーツ科学が追求すべきは、「最高記録」だけではなく「持続可能な競技活動」でもある。松本の2019年シーズン終盤は理想的ではなかったかもしれないが、大きな後退もなかった。この種の「不完全だが継続的」な状態こそが、長期的な競技活動への現実的な道筋である。
タイムレース3位という結果は、大きな飛躍ではないものの、大きな崩れもない状態を示している。競技の歴史という視点では、このような「静かな大会」こそが、次の成長や再構築の前段階として重要な意味を持つことがある。
本大会は華々しくはないが、2020年への道を照らした一戦として、位置づけられる。


コメント