【2023年度・第5戦】第71回全日本実業団対抗陸上競技選手権大会――「勝ち切れなかった準優勝」が示す、基準の所在――

目次

大会情報

大会名:第71回全日本実業団対抗陸上競技選手権大会
開催日:2023年9月22日〜24日
会 場:岐阜メモリアルセンター長良川競技場(岐阜県岐阜市)

レース結果

女子200m

記  録:24秒36
順  位:7位
予  選:24秒38 (-0.8) / 2組4着

女子400m

記  録:54秒06
順  位:2位
予  選:54秒12 / 1組1着

( 出典:東邦銀行陸上競技部 公式サイト「大会日程・結果」
( 出典:日本陸上競技連盟「第71回全日本実業団対抗陸上競技選手権大会」リザルト

松本奈菜子のコメント

全日本実業団では、順位に拘っていたので、400mでは勝ち切ることができなかったこと、200mでは下位入賞というのが悔しかったです。来年は、これより良い順位で貢献できるように頑張ります。応援ありがとうございました。

( 出典:東邦銀行陸上競技部 公式サイト「大会日程・結果」選手コメント

考察①「勝ち切ることができなかった」という評価軸

女子400mで〔54秒06・2位〕という結果は、全国規模の実業団最高峰大会における準優勝として、客観的には高く評価されるべきものである。しかし松本は「400mでは勝ち切ることができなかったことが悔しかった」と語っている。

「順位に拘っていた」という言葉が示す通り、この大会でのチームへの貢献という観点から、松本の評価軸は表彰台ではなく「勝利」に置かれていた。準優勝という結果を成果として受け止めるのではなく、「勝てなかったレース」として捉えるこの姿勢は、高校時代から一貫してきた内的基準の高さの表れであると思われる。

前回の第70回大会でも同じ会場で2位という結果 に悔しさを語った松本が、翌年も同じ舞台で同じ悔しさと向き合っている。その事実が、この大会への松本の真剣な向き合い方を静かに伝えている。

考察②「下位入賞」という200mの自己評価

女子200mでは予選24秒38・決勝24秒36・7位という結果であった。決勝に進出し入賞を果たしながら、松本は「200mでは下位入賞というのが悔しかった」と語っている。

400mを主戦場とする松本にとって、200mは専門外の種目である。それでも「入賞」を「下位」と率直に認める言葉には、種目を問わず妥協しないという姿勢が表れている。

こうした自己評価の精度の高さは、自身の走りを客観的に把握するメタ認知の力と深く関わるとされている。より高い水準を自らに求め続けることが、継続的な成長の原動力となっていく。

考察③「貢献」という言葉に込められた思い

コメントの最後に置かれた「来年は、これより良い順位で貢献できるように頑張ります」という言葉で特に目を引くのは、「勝つ」でも「記録を出す」でもなく「貢献」という言葉が選ばれている点である。

全日本実業団は、個人の走りがそのままチームの得点に直結する対抗形式の大会である。松本の悔しさは、自分自身の順位への不満であると同時に、チームへの貢献が十分ではなかったという思いとも重なっているのではないかと感じられる。

2019年の実業団デビュー時のブログに綴った「このチームに貢献したい」という言葉が、5年後のこのコメントにも変わらず流れている。松本がこの大会に向き合う姿勢の根底に、チームへの一貫した思いがあるのではないかと思われる。

考察④2023年シーズンにおける本大会の位置づけ

記録の面では、女子400mの予選54秒12・決勝54秒06という結果は、2022年シーズンに記録した52秒台や53秒台前半からすると、やや水準を下回った形となっている。しかしこの数字を読み解く上で、2023年シーズンの背景を添えておく必要がある。

2022年末、松本は左足舟状骨※の疲労骨折を負い、2023年シーズンのスタートは遅れを余儀なくされた。シーズン序盤の調整期間を失った中で、それでも全日本実業団の舞台に立ち、決勝で2位という結果を残したことは、こうした文脈の中でこそ正確に受け止めるべきものではないかと思われる。

大崩れしたわけでもなく、しかし本人が求める水準にも届かなかった。その悔しさを「来年はより良い順位で貢献できるように」という言葉に変えて次へ向かう姿勢は、骨折からの回復を経て走り続けてきた2023年というシーズン全体への、静かな誠実さでもあるのではないかと思われる。

※足の舟状骨(しゅうじょうこつ)は、足首の前方にある母趾(親指)側の小さい骨。土踏まず部分にある足部の形状を保つうえでも重要な骨である。

解説――全日本実業団対抗陸上競技選手権大会について

全日本実業団対抗陸上競技選手権大会は、日本実業団陸上競技連合 が主催し、毎日新聞社が共催する、日本の実業団対抗による陸上競技選手権大会である。1953年の初開催以来70年以上にわたって継続されており、男女総合、男子総合、女子総合の3つの対抗成績が競われる、実業団陸上競技界における最も権威ある大会のひとつである。2005年以降は例年9月に開催されており、会場は持ち回りとなっている。

日本実業団陸上競技連合は翌年の国際大会への海外派遣や強化合宿を実施しており、この選手権での成績がそのような活動と結びつく舞台として、実業団選手たちにとって特別な意味を持っている。

解説――岐阜メモリアルセンター長良川競技場について

岐阜メモリアルセンター長良川競技場は、岐阜県岐阜市の岐阜メモリアルセンター内にある陸上競技場兼球技場である。施設は岐阜県が所有し、公益財団法人岐阜県スポーツ協会が指定管理者として運営管理を行っている。日本陸上競技連盟公認の第1種陸上競技場で、全天候舗装の9コースのトラックを有しており、国際的・全国的規模の競技大会が開催できる施設として整備されている。フィールド内ではサッカーやラグビー、ホッケーの試合も開催される多目的競技場である。

1987年に開催された第42回国民体育大会(岐阜国体)のメイン会場として整備された施設であり、その後2012年の第67回国民体育大会(ぎふ清流国体)でも再び主要会場として活用された。JリーグFC岐阜のホームスタジアムとしても知られており、長良川のほとりに位置する岐阜メモリアルセンターは野球場・体育館・プールなど多彩なスポーツ施設を擁する岐阜県の総合スポーツ拠点となっている。

なお、2026年4月1日からネーミングライツにより「ヒマラヤスタジアム岐阜(ヒマスタ岐阜)」の愛称が使用されている。 日本陸上競技連盟公認 第1種競技場である。

※本ブログは、公式記録および関係団体の公式発表、陸上競技専門メディアの公開記事、ならびに信頼性の高い報道・Web記事を参考資料として作成しています。記事中の競技分析および考察は、運動生理学・スポーツ科学等の知見に基づく筆者の見解であり、松本奈菜子選手、関係者の方々の見解や立場を示すものではありません。
※本記事に掲載の地図は、Google マップの埋め込み機能を利用して示しています。
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