【2019年度・第9戦】富士北麓ワールドトライアル2019――0.04秒差が示した世界への距離と、未来への確かな手応え

2019年度
2019年度東邦銀行1年目
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大会情報

大会名:富士北麓ワールドトライアル2019
開催日:2019年9月1日
会 場:富士北麓公園陸上競技場(山梨県富士吉田市)

競技結果

種目:女子4×400mリレー
記録:3分31秒66
順位:2位
備考:松本奈菜子は3走を担当

( 出典:日本陸上競技連盟 公式サイト「2019世界陸上ファイナルチャレンジ【富士北麓ワールドトライアル】

( 出典:一般財団法人 山梨陸上競技協会「 富士北麓ワールドトライアル2019」記録集

考察①この大会が持っていた意味――世界への最終挑戦の舞台

富士北麓ワールドトライアル2019は、単なる記録会ではなかった。ドーハ世界陸上競技選手権大会、そして2020年東京オリンピックへの出場権獲得を視野に入れた、2019年シーズン最後の挑戦の舞台であった。

2019年、女子4×400mリレーは東京オリンピック出場権獲得を最大目標に掲げ、冬季から特別強化プロジェクトとして動いていた。走力強化、フォーム改良、バトン技術――すべてを積み重ねてきた。しかし、上位10チームに出場権が与えられる世界リレーでの「即時内定」は叶わなかった。

そのため、ワールドランキング16位以内という条件での出場権獲得を目指していた。有効期限が迫る9月1日、この大会はその最後の機会として位置づけられていた。

この日の対戦相手はオーストラリアだった。すでに3分27秒43の記録を持ち、ワールドランキング16位以内はほぼ確実と見られているチームである。

日本の明確なターゲットは、8月11日にウクライナがマークして暫定15位にランクインした3分29秒33、そして2015年世界選手権で樹立された日本記録3分28秒91だった。

オーストラリアは「倒すべき相手」であると同時に、世界基準を測るための最良の物差しでもあった。この強豪の胸を借りて、日本は世界への最終挑戦に臨んだのである。

考察②リレーオーダーと4人それぞれの役割

この一戦に臨んだオーダーは以下の通りであった。

走順 選手名 所属
1走 髙島咲季 相洋高校
2走 青山聖佳 大阪成蹊AC
3走 松本奈菜子 東邦銀行
4走 岩田優奈 中央大学

新たに今季日本リスト1位の53秒31(U18日本記録)をマークした高校生の髙島咲季がナショナルチームに招集され、1走に起用された。そして2走から4走を、青山聖佳、松本奈菜子、岩田優奈という実力者たちが務める布陣となった。

レースは1走の髙島がオーストラリアとほぼ互角でバトンをつなぐ理想的な立ち上がりを見せた。2走の青山は積極的な展開で一時リードを奪ったものの、少しずつ追いつかれ、ほぼ同着の状態で松本へバトンを渡した。

3走の松本は、そこから再びオーストラリアとの差を広げる力走を見せた。しかしラスト100mに差し掛かるにつれ、オーストラリアがじわじわと距離を縮めてくる。バトンを渡す瞬間には、わずかにオーストラリアに先行を許す形となった。

アンカーの岩田は、その差を懸命に追った。ゴール直前でほぼ並びかけるまでに詰め寄る粘り強い走りを見せたが、最後のわずかなところで届かなかった。

オーストラリア:3分31秒62  日本:3分31秒66

差は、わずか0.04秒であった。4人それぞれが自身の役割を全うし、持てる力を出し尽くした末の、この数字であった。

考察③3分31秒66という記録が示すもの

3分31秒66という記録は、複雑な意味を持つものであったと思われる。

この記録は世界リレーでのタイムを上回る今季日本最高であり、日本歴代7位にあたる。4人が積み上げてきた冬季からの取り組みが、確かな記録として結実したことを示している。

一方で、目標としていたワールドランキング上位への到達には届かず、ドーハ世界選手権への出場権獲得という目標は叶わなかった。「世界の扉の直前まで到達した」と同時に「扉はまだ完全には開かなかった」という、到達と未達が同時に存在する一戦として、このアーカイブに刻まれるべきものではないかと思われる。

考察④0.04秒差という現実と、前向きな受け止め方

0.04秒という差は、陸上競技においていわゆる「紙一重」と表現される距離である。この僅差には、各走者の個の走力、バトンパスの精度、レース展開の読み、そのすべてが凝縮されていると考えられる。

松本の「本当に力がついたことを感じた」「自分自身の変化が出てきた」という言葉は、目標未達という結果を、積み重ねの証として受け止めていることを示している。

実際にやり遂げた経験の積み重ねが、次の挑戦への信頼感を育てる源泉となっていく。冬季から積み上げてきたプロジェクトの日々そのものが、4人にとってその源泉になっていったのではないかと思われる。目標には届かなかったが、「力がついた」という実感を持てたこと自体が、次の挑戦へ向かうための確かな土台となっていくのではないだろうか。

考察⑤「またここから」――次への視線が示す競技者としての成熟

「今日のレースでひと区切りしてしまうところはあるが、東京オリンピックに向けては、またここから」という松本の言葉には、一つの結果に縛られず、次の目標へと視線を向け直す力が表れている。

さらに「現状を把握して、これからやるべきことを1人1人が理解して、個々の力をレベルアップしていきたい」という言葉は、チームとしての戦術だけでなく、それぞれの個の走力を高めることがリレーの総合力に直結するという本質的な認識を示している。

現状を正確に把握した上で具体的な方向性を見定めること。「現状を把握する」という松本の言葉は、この姿勢の表れではないかと考えられる。漠然とした悔しさで終わらせず、「やるべきこと」を言語化できる力が、次の挑戦を実りあるものにしていく。

リレー競技は4人が一体となって走るものであるが、その土台となるのは、一人ひとりの走力である。この日の経験が、チームへの貢献意欲と個の成長意欲を同時に育てる、ひとつの確かな礎となっていったのではないかと思われる。

解説――富士北麓ワールドトライアルについて

富士北麓ワールドトライアルは、山梨県富士吉田市の富士北麓公園陸上競技場を会場として開催される陸上競技大会である。主催は一般財団法人山梨陸上競技協会、共催は山梨日日新聞・山梨放送、日本陸上競技連盟が運営協力する形で実施されている。

日本グランプリシリーズの一戦として位置づけられており、現在は毎年8月頃に開催されている。大会名に冠された「ワールドトライアル」という言葉が示す通り、世界選手権やオリンピックの参加標準記録の突破を目指すトップアスリートが集う舞台として知られており、参加標準記録の有効期限が迫るシーズン終盤の重要な一戦として日本陸上競技界に定着している。

この大会が特に注目を集めたのが2019年の開催である。「富士北麓ワールドトライアル2019」は、ドーハ世界選手権参加標準記録の有効期間が終了する9月6日を直前に控え、「2019世界陸上ファイナルチャレンジ」と銘打って設定されたもので、トラック10種目・フィールド7種目の計17種目が実施された。多くのトップアスリートが世界選手権出場を期して標準記録突破に挑んだ。

解説――富士北麓公園陸上競技場について

富士北麓公園陸上競技場は、山梨県富士吉田市上吉田に位置する山梨県富士北麓公園内の陸上競技場である。正式名称は「山梨県富士北麓公園陸上競技場」であるが※、単に「富士北麓競技場」と呼ばれることもある。

1977年(昭和52年)3月16日に都市計画が決定され整備が開始された。かいじ国体(1981年)の開催に向けて陸上競技場・野球場・体育館が整備され、大会後も引き続き県民に親しまれる施設として活用されてきた。

※2026年1月1日より、富士北麓公園陸上競技場は「富士山GXスタジアム」という名称になった

標高1,035mという高地に位置しており、雄大な霊峰富士を間近に仰ぎながら競技できる、このスタジアムならではの特別なロケーションを持っている。四季折々の豊かな自然に囲まれた環境の中に、体育館・野球場・陸上競技場・球技場等の本格的なスポーツ施設が整備されている。

陸上競技場は第2種公認の全天候型400m×8コースのトラックを有しており、フィールドは107m×71mの天然芝を備えている。メインスタンドの固定席は1,105名、外野芝スタンドを合わせると10,000名を収容できる。 富士北麓ワールドトライアルの会場として陸上競技界にも広く知られており、世界選手権への参加標準記録突破を目指すトップアスリートたちが集う舞台となっている。

※本ブログは、公式記録および関係団体の公式発表、陸上競技専門メディアの公開記事、ならびに信頼性の高い報道・Web記事を参考資料として作成しています。記事中の競技分析および考察は、運動生理学・スポーツ科学等の知見に基づく筆者の見解であり、松本奈菜子選手、関係者の方々の見解や立場を示すものではありません。
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