【2022年度・第1戦】2022 Brisbane Track Classic――初めての南半球で掴んだ、確かな手応えと次への焦点

2022年度
2022年度東邦銀行4年目
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大会情報

大会名:2022 Brisbane Track Classic
開催日:2022年4月9日
会 場:オーストラリア・ブリスベン〔QSAC〕

備 考

大会前の公式サイト( Athletics Australia )では、女子400mの注目選手のひとりとして松本奈菜子が取り上げられ、以下のような文章で紹介された。

「Olympian Jessica Thornton  laid it all on the line to win silver at the nationals, but this is an encounter of similar difficulty, factoring in the new additions and Japan’s Nanako Matsumoto – a 53.02 runner.」

(訳:全国大会で銀メダル獲得のためにすべてを出し切ったオリンピアンの Jessica Thorntonにとっても、今大会は気の抜けない一戦となりそうだ。新たな出場者の加入に加え、53秒02のタイムを持つ日本の松本奈菜子が参戦することで、レースの難易度はさらに高まることが予想される。)

レース結果

種 目:女子400m
記 録:53秒57
順 位:3位

( 出典:東邦銀行陸上競技部 公式サイト「大会日程・結果」
( 出典:World athletics Brisbane Track Classic 09 APR2022 Women’s 400 Metres
( 出典:Results – 2022 Chemist Warehouse Brisbane Track Classic

松本奈菜子のコメント

今回がシーズンインとなるレースでした。当日は雨風のあるレースでしたが、力みはなくリラックスした状態で集中して試合に臨めました。前半のレース運びはうまくいきましたが、中盤で上手くラストの直線に繋げることが出来ませんでした。ラストスパートはかけたものの前との差が開いたままでのゴールとなりました。調子も良く、記録も狙っていただけに悔しいです。しかし、今シーズン初レースでしたが、感覚のよいレースとなり、今後の自信にもつながりました。ここから更に記録を伸ばし、52秒台、51秒台を狙っていきます。応援ありがとうございました。

(出典:東邦銀行陸上競技部 公式サイト「大会日程・結果」選手コメント

考察①シーズン初戦としての精神状態――リラックスと集中の両立

松本にとって、この Brisbane Track Classic は「初めて」が重なった特別な一戦だった。初めてのオーストラリア、そして初めての海外でのシーズンイン。ブリスベンの郊外に広がる、のんびりとした空気と澄んだ環境の中で、試合当日前は穏やかな時間を過ごすことができた。

しかし、試合当日は一転、雨風の強い寒い日となった。それでも松本はブログにこう綴っている。

試合当日は、今までの暖かくて天気の良い日はどこに行ってしまったの?というくらい、雨風があり寒い日でした(笑)しかし、福島の冬を越しているので強くなりました(笑)こんな寒さ全然大丈夫だ!と自分を励まして試合に臨むことができました。

(出典:東邦銀行陸上競技部 公式サイト「選手ブログ」2022年4月22日

海外特有のピリピリした雰囲気を想像していたという松本だったが、実際はむしろ和やかな空気が漂い、「純粋に自分もレースを楽しもうと思ってレースができました」と同ブログで振り返っている。

松本は過去のシーズン初戦では、初戦特有の雰囲気のなかで本来の自分の走りを出しきれないこともあったが、今回は上記コメントのとおり、リラックスした状態でレースに臨むことができた。

悪条件の中でも精神的な過緊張に陥ることなく臨めたこの落ち着きは、2021年シーズン後半から積み上げてきた経験の蓄積が、競技者としての安定感として現れてきたのではないかと考えられる。

考察②前半局面――「設計できるレース」への手応え

前半のレース運びは、松本自身が描いていたイメージ通りに展開した。シーズンの入りとしては、完成度の高い前半局面であったと考えられる。力みのない加速、無理のない位置取り、消耗を抑えながらスピードに乗る展開。これらは、冬期トレーニングで積み上げてきたものが、シーズンの初戦から着実に出力されつつあることを示唆しているのではないだろうか。

レース結果についても松本は同ブログで、こう語っている。

1本目から、53秒台で走ることができたことは良かったです。

初めて53秒台でシーズンインを迎えられたことへの、静かな手応えが伝わってくる言葉である。

考察③中盤局面――ラストへの接続という課題

一方で、松本自身が明確に指摘した通り、本レースにおける最大の課題は中盤にあったと考えられる。「中盤で上手くラストの直線に繋げることが出来ませんでした」という言葉が示す通り、前半で作った勢いをラストへとスムーズに渡すためのトランジション区間において、接続がうまく機能しなかったことが、最終的な結果に影響したと考えられる。

400mというロングスプリントにおいて、中盤(200〜300m)の区間は、前半の速度を維持しながらラストへの準備を整える、競技構造上の要所とも言える。ここでの流れが断ち切られると、ラストへの助走が不十分になり、スパートを仕掛けるタイミングや推進力に影響が出やすくなる。

考察④ラスト局面――スパート能力ではなく、入り方の問題として

「ラストスパートはかけたものの、前との差が開いたままでのゴールとなりました」というコメントは、スパート能力そのものへの課題というよりも、ラストへ入るための条件が整わなかったことを示唆しているのではないだろうか。問題はラストの「脚」ではなく、ラストへ「入る前の状態」にある可能性が高く、この点は前述した中盤のトランジション課題と論理的に繋がっていると考えられる。

それでも松本はレース全体をこう振り返っている。

今シーズン初レースでしたが、感覚のよいレースとなり、今後の自信にもつながりました。

( 出典:同コメント

修正点はありますが、自分の中でもまだまだいけるな!と思える感覚の良いレースでした。

( 出典:同ブログ )

課題は明確にしながらも、さらなる伸びしろへの確かな手応えを感じていたことが、この言葉から伝わってくる。

考察⑤2022年シーズンの基準点として――この一戦が示したもの

〔53秒57・3位〕という記録だけを見れば、際立った結果とは言えないかもしれない。しかし、この Brisbane Track Classic が2022年シーズンの初戦として持つ意味は、記録以上のものがあるのではないかと考えられる。

悪条件下でも崩れない精神状態、前半局面の高い完成度、そして「まだまだいけるな!」と感じられた手応え。これらは、今季の到達可能な領域を静かに、しかし確かに示している。

また、この遠征は競技以外の面でも松本に大きなものをもたらした。

先入観があることでハードルが高く感じてしまうことってあると思うんですが、そういうことも自分の足で行って、目で見て、感じてってすることで、自分が思っていたより案外大丈夫かもと思えることってあると思います。だから、何事もまずは経験することって必要なことなのかもしれないなと今回学びました。

( 出典:同ブログ

この言葉は、競技に限らず、初めての環境に自らの足で踏み込んでいく姿勢が、松本の中に着実に根付いていることを感じさせる。

400mの前半は整いつつある。ラストへの能力も備わっている。残された焦点は、中盤でいかにラストを生み出す流れをつくるか、その一点に収まっていくのではないだろうか。この課題が明確になったことこそが、本大会が「2022年シーズン全体の出発点」として持つ、重要な意味であると思われる。

解説――Brisbane, Australia 南半球の陸上都市

日本からの距離と時差

ブリスベンはオーストラリア東海岸、クイーンズランド州の州都である。日本との時差はわずか+1時間。成田空港・関西国際空港からの直行便が就航しており、飛行時間は約9〜9時間30分。松本が同ブログに「寝ていたら着いてしまった」「本当に海外?と思うくらい近い」と記したのは、この時差のわずかさと飛行時間の短さによるものであろう。ヨーロッパや北米への遠征と比べて身体への負担が少ない点は、シーズン初戦の地として多くの日本人アスリートに選ばれる理由のひとつでもある。

4月のブリスベン――南半球の「秋」という環境

日本では春にあたる4月だが、南半球に位置するブリスベンでは秋に差し掛かる季節である。松本が遠征した2022年4月は、日差しが和らぎ過ごしやすい時期にあたる。市街地から少し離れた郊外の澄んだ空気と、のんびりとした雰囲気については、前述のとおり、松本自身もブログに印象深く記している。

Brisbane Track Classic と大会会場QSAC

Brisbane Track Classic は、ブリスベン南部のマウント・グラバット地区にあるクイーンズランド・スポーツ&アスレティクス・センター(Queensland Sport and Athletics Centre/QSAC)で毎年3〜4月に開催される屋外陸上競技大会であり、「メルボルン・トラック・クラシック」、「シドニー・トラック・クラシック」とともにオーストラリア・アスレティクス・ツアーを構成する主要大会のひとつである。

大会の歴史は1988年に遡り、名称は時代とともに変化しながらも、ブリスベンを代表するシーズンの陸上競技イベントとして長年にわたり親しまれてきた。日本からも多くのトップアスリートがシーズン初戦の場としてこの大会を選んできた経緯があり、国際的な競技水準と穏やかな遠征環境を両立できる大会として、日本陸上界にも広く知られている。

※本ブログは、公式記録および関係団体の公式発表、陸上競技専門メディアの公開記事、ならびに信頼性の高い報道・Web記事を参考資料として作成しています。記事中の見解および考察は運動生理学・スポーツ科学等の知見に基づく筆者の見解であり、松本奈菜子選手本人、東邦銀行陸上競技部、および関係諸団体の見解や立場を示すものではありません。
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