【2019年度・第13戦】第103回日本陸上競技選手権リレー競技大会―― シーズン最終戦が示した多面的省察と2020年への決意 ――

2019年度
2019年度東邦銀行1年目
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大会概要

大会名: 第103回日本陸上競技選手権リレー競技大会
開催日: 2019年10月26日 – 27日
会   場: 北九州市立本城陸上競技場(福岡県北九州市)

レース結果

女子4×100mリレー

  • 記録: 45秒77
  • 順位: 6位
  • 担当区間: 4走(アンカー)
  • 形式: タイムレース

女子4×400mリレー

  • 記録: 3分51秒40
  • 順位: 3組6着
  • 担当区間: 4走(アンカー)
  • 形式: タイムレース

松本奈菜子のコメント

4継では、決勝に進出することができ良かったです。しかし下位入賞だったため、400mをメインではやっていますが、100mを専門とする選手に劣らないくらいの走力をつけていきたいと思いました。また、マイルリレーではとても悔しかったですが、どんな状況でもアンカーとしての役目としてちゃんと着順には入らなければいけなかったと感じました。実力不足だったので、来年は両リレーとも優勝したいと思います。今年も応援ありがとうございました。

考察①シーズン総括としての最終戦

日本選手権リレー大会は、松本奈菜子にとって2019年度シーズンの最終戦にあたる。個人種目ではなく2種目のリレーでアンカーを務めた点が象徴的であり、本大会は「走力」だけでなく「役割遂行能力」が問われる舞台となった。

記録的には4×100mリレー6位、4×400mリレー予選敗退と目立った結果ではない。しかしレース後コメントに示された、専門性の自覚、役割責任の認識、次年度目標の明確化、感謝の表明という多層的な振り返りは、スポーツ心理学における「シーズン総括」の一つの形を示している。

考察②「専門性の差」という認識の意味

「100mを専門とする選手に劣らないくらいの走力をつけていきたい」という松本の言葉は、400m走者に必要な能力の理解を示している。

トレーニング科学における考え方では、専門能力(400m走力)は、より基礎的な能力(短距離スピード、筋力、持久力)の上に構築される。400m走者にとって100m走力は「基礎的な速度」として機能する。

研究では、400mの前半200mが最終記録と高い関連性を持ち、この前半速度は100m走力に影響されるとされる。松本が短距離スピードの向上を課題として認識した事実は、400m向上への道筋を具体的に捉えたことを意味する。

また、比較対象として「100m専門選手」を設定した点は、心理学における「上方比較」の活用を示す。やや優れた他者との比較は、適度に設定されれば動機づけを高める。100m専門選手は松本にとって「困難だが到達可能」な比較対象である。実際、福島県選手権での200m自己新(24秒39)は、短距離的スピード向上の可能性を示している。

考察③アンカーとしての役割責任の認識

「どんな状況でもアンカーとしての役目としてちゃんと着順には入らなければいけなかった」という言葉は、役割理論における「役割期待の内面化」を示している。

アンカーは、最終結果への直接的責任、前3走者の努力を活かすプレッシャー、観衆の注目集中という三重の心理的負荷を負う。スポーツ心理学では、過度な役割期待が不安を高めパフォーマンスに影響することが指摘される。しかし松本の場合、この役割期待を「脅威」ではなく「挑戦」として捉えている様子が見られる。

「ちゃんと着順に入らなければ」という言葉は、外的プレッシャーを内的基準として統合した表れである。福島県選手権での初リレー以来、松本は「チームへの貢献」という意識を形成してきた。今回のコメントは、この意識がさらに深まり、「アンカーとしての責任」という具体的な役割認識へ発展したことを示している。

組織心理学における理論では、役割期待を超えた自発的貢献が、組織への情緒的な結びつきから生じるとされる。松本の「着順を守る」という自己基準は、チーム規範の内面化を示し、東邦銀行への帰属意識の深さを物語っている。

考察④「実力不足」という総括的自己評価の建設性

「実力不足だった」という評価は、Weinerの帰属理論における「内的・不安定・制御可能」帰属の典型である。この種の帰属は、自己責任を認める(内的)、改善可能性を保持する(不安定)、具体的行動を促す(制御可能)という三重の効果を持つ。

対照的に「運が悪かった」(外的帰属)や「才能がない」(内的・安定・制御不能帰属)という評価は、学習機会を見逃すか無力感を生む。松本の評価の仕方の建設性が、2019年シーズンの多様な経験――成功(日本選手権3位)、未達(世界選手権出場権逸失)、停滞(国体55秒42)――を統合的に学習へ変換する基盤となる。

考察⑤具体的な次年度目標設定

「来年は両リレーとも優勝したい」という目標は、Locke & Lathamの目標設定理論における「具体的で挑戦的な目標」の要件を満たしている。

具体性(種目特定)、挑戦性(2019年は6位・予選敗退から優勝へ)、測定可能性(順位という明確な指標)――これらを備えた目標設定である。この種の明確な目標が、オフシーズンのトレーニング計画を方向づける。「100m的スピード向上」「400m後半の粘り強化」という下位目標が、「リレー優勝」という上位目標から導き出される。

考察⑥感謝表明の心理社会的機能

「今年も応援ありがとうございました」という感謝表明は、社会心理学における「社会的支援認知」の表出である。社会的支援は情緒的支援(共感・励まし)、道具的支援(具体的援助)、情報的支援(助言)に分類され、これらがストレス緩和効果を持つ。

重要なのは、松本が「支援されている」と認識し、それに感謝)の心理的な回復力を支える。

また、公的な場での感謝表明は「公的コミットメント」として、競技継続への推進力を持つ。「来年は優勝したい」という宣言を公にすることで、社会的期待への応答意識、目標達成への責任感、一貫性維持の動機が働き、目標への取り組みを心理的に後押しする。

考察⑦2019年シーズンの統合的評価

松本の2019年シーズンを時期ごとに整理すると、明確な発達の軌跡が浮かび上がる。

前半(4-7月)の技術的進化: 出雲でのスタート課題→静岡・木南での中間疾走の試行錯誤→日本選手権での前半主導型の確立→福島での200m自己新。この前半の軌跡は「基礎技術の段階的洗練」として理解される。

中盤(8-9月)の目標未達と学習: 実業団・学生対抗での「出し切れない」感覚、全日本実業団での「53秒前半未達」、富士北麓での「0.04秒差敗北」。これらの経験は「目標と現実のギャップ認識」として整理される。

終盤(10月)の疲労と回復: 国体での記録低下(55秒42)、Denkaでの部分的回復(54秒59)、リレー選手権での役割認識。この終盤の軌跡は「疲労管理と持続可能性の課題」として位置づけられる。

この三段階を経て、松本は2019年シーズンを「技術的進化+目標設定の精緻化+疲労管理の重要性認識」という三層の学習として総括したと推察される。

考察⑧冬季練習への言及――基本回帰と長期的視野

「ちゃんと地に足つけて、目標を持ち続けてここからまた頑張ります」という言葉は、Bompaのピリオダイゼーション理論における「準備期」の重要性認識を示している。

準備期は、基礎体力再構築、技術的弱点修正、心理的リフレッシュを目的とする。松本が「地に足つけて」と表現する姿勢は、シーズン中の試合から地道な基礎トレーニングへの価値転換を示す。この種の「基本回帰」能力が、長期的な競技活動を可能にする。

「目標を持ち続けて」という言葉は、目標設定理論における「目標コミットメント」の表明である。オフシーズンは試合という外的刺激が減少し、動機づけが減退しやすい。しかし松本は、専門種目である400mでの記録向上という課題に加え、「両リレー優勝」という目標により、内発的動機づけを維持する姿勢を示している。リレーでの短距離スピード強化は、そのまま400m前半の加速力向上につながり、専門種目とリレー種目が相互に高め合う関係にある。

考察⑨未完の2019年が準備する2020年

日本選手権リレー大会は、2019年シーズンの「完成」ではなく「総括」の場となった。4×100m=6位、4×400m=予選敗退という結果は目立ったものではない。しかしこの最終戦で示された多面的な振り返りは、2020年への確かな準備を示している。

スポーツ心理学における「省察的実践」理論では、経験を学習へ変換する能力こそが熟達の本質とされる。松本の2019年シーズンは、記録的には53秒70(日本選手権)という部分的成功に留まったが、学習の質においては極めて豊かであった。

技術的課題(短距離スピード、コーナー技術)、戦術的課題(ペース配分)、生理学的課題(疲労管理)、心理的課題(役割責任)――これらすべてが明確化され、次年度トレーニング計画へ統合される準備が整った。

挑戦と変化、喜びと悔しさが交錯した一年。そのすべてを経て残ったのは、支えてくれる人々への感謝と競技者として歩み続ける覚悟であった。冬季練習という静かな時間の中で、松本奈菜子は次の飛躍を静かに、しかし確実に準備する。未完の2019年こそが、2020年への確かな一歩となるのである。

参考資料:後日掲載します。

※本記事は、公式記録および関係団体の公式発表、陸上競技専門メディアの公開記事、ならびに信頼性の高い報道・Web記事を参考資料として作成しています。記事中の競技分析および考察は、運動生理学・スポーツ科学等の知見に基づく筆者の見解であり、松本奈菜子選手、関係者の方々の見解や立場を示すものではありません。

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